『選評』／石部 明

　「兵」はたちまち６２年前の戦争にタイムスリップする。しかし、今と言う時代を視点にもたなければ、固定された概念をなぞるカビ臭いものになってしまう。九条の句も書かざるを得ない根拠に独自性がなく上滑りしている。「雑兵」という便利だが手垢まみれの語は避けた。だが佳句も多く真剣に選と取り組んだ。

水芭蕉のしらじらしさが兵である
「兵」をこれほどイメージ化した作品はほかになく、特選にためらいはなかったが、その解釈にいささか骨の折れる作品でもある。「水芭蕉」「しらじら」「兵」の意味が一本の線になったとき、一句に論理的な意味が付加されるのだが、この句は論理ではなくイメージによって表現された「兵」である。「水芭蕉」の葉と、あの花弁を包む大ぶりな白い仏炎苞（ぶつえんほう）と言われるものは、群生すれば軍隊であり、少数なら兵に見立てられないことはない。そして「しらじら」は水芭蕉に託した作者の、「兵」の背後に横たわる戦争への醒めた視線であり、批評であろう。だが強引な解釈はかえって句を小さくしてしまうこともあり、ここは「水芭蕉」と「兵」が漣のように反響しあう絵画的イメージの中に
「しらじら」の意味を考えるだけでもいい。

蝉ないてうすべに色の朝の兵
　その周辺だけがうすべに色に染まり、出征の少年兵が立つ朝の庭。表現の古さは気になったが、それが昭和の気配を誘う。「うすべに色」という心象風景の中に取り入れた「兵」は、作者のものとして永遠性の中にある。

志願兵続く一旦コマーシャル
　時代はマスメディアの情報操作によって動かされ、盲目的に時代を共有していると錯覚する私たちの現実。「志願兵つづく」、さてその先の真実が見えてこない苛立ちを批評する戯画として「一旦コマーシャル」は鋭い。