第15回杉野十佐一賞
たかせそうせき/第14回杉野十佐一賞大賞受賞者
高瀬霜石 選
佳作1 葬送は三本締めでいきましょう 浪越 靖政 北海道
佳作2 ガラガラドン秋の気配となりました 土田雅子 青森県
佳作3 ぼっちゃんはポッポポッポと鳴くだけで 宮本夢実 長野県
佳作4 聞いてやらない 心の叫びなんか 赤平くみこ 青森県
佳作5 不満げな音がする姉の抜け殻 やまもとじろう 東京都
佳作6 蚊が一機たった一機の風物詩 賊沢御免 宮城県
佳作7 ピピピピピー過去をお知らせ致します 三浦蒼鬼 青森県
佳作8 「ラ」の音で今日の私が出来上がる 藤村容子 石川県
佳作9 懐へ届く音なら受け止める 川路泰山 静岡県
佳作10 隅っこで生きる小さな音たてて 興津幸代 長野県
佳作11 音程がはずれたままの家に居る 坂本清乃 青森県
佳作12 一滴の水道水も音を持つ 南山藤花 青森県
佳作13 水琴窟 きっと私も裁かれる 城後朱美 福岡県
佳作14 口づけは受胎告知の音がした 村井規子 青森県
佳作15 音の出るあたり診察してもらう 遠山あきら 滋賀県
佳作16 足音を消して何かが追ってくる 三浦昌子 宮城県
佳作17 ドレミファソ一生探し続けるラ まみどり 青森県
佳作18 音たててごらんさびしくなってくる 興津幸代 長野県
佳作19 体内で渋滞してるひとの音 柳圭 愛知県
佳作20 追い詰めて私の音色確かめる 熊谷冬鼓 青森県
佳作21 今日というちょっと壊れた日の音色 横山キミヱ 青森県
佳作22 一切の音抜いてこんにゃくになる 守田啓子 青森県
佳作23 タイマーがいつも鳴るとは限らない 城後朱美 福岡県
佳作24 支え合うところが葦の音だろう 丸山空木 長野県
佳作25 7日間身体の音色変ります 香田龍馬 青森県
佳作26 中八の辺りでざんざ降りになる 相田みちる 山形県
佳作27 からっぽでいるのが特にむつかしい 吉田州花 青森県
佳作28 騒音を少し下さい眠れます 香田龍馬 青森県
佳作29 どんぐりはドングリだけの音で落ち 徳長 怜 徳島県
佳作30 風船の中で私は生きていた 坂本勝子 青森県
佳作31 聞いたことのない真っ黒な音でした 守田啓子 青森県
佳作32 絶対音感の悲しい耳を持っている 木下草風 岡山県
佳作33 すり足はやめてくださいお母さん 八上桐子 兵庫県
佳作34 いい音で割れるガラスになりました 久保田 紺 大阪府
佳作35 喜んでもらえぬ音が私です まみどり 青森県
佳作36 瘡蓋の中で熟成する音符 三浦蒼鬼 青森県
佳作37 リエゾンであなたと波の音になる 徳長 怜 徳島県
佳作38 そうなんだ 踵をかえす音なんだ 笹田かなえ 青森県
佳作39 ブルースがひとりぼっちを攻めてくる まきこ 青森県
佳作40 音はもうしないけれども見つけてね 久保田 紺 大阪府
佳作41 雑音も受け入れまして野菜カレー 近藤朋子 岡山県
佳作42 「不協和音ですか」エー出汁が取れます 能田勝利 愛媛県
佳作43 貝殻の音だけ入れる処方箋 安藤 なみ 愛知県
佳作44 からっぽになってきれいな音がする ながたまみ 愛知県
       
秀逸1 コキンコキンとわたくしを組立てる 柳圭 愛知県
秀逸2 大丈夫いい音でてる頭蓋骨 小野五郎 青森県
秀逸3 ひとりずつ欠けてひとりになった音 久保田 紺 大阪府
秀逸4 しあわせの音を調律しています 大澤 香 青森県
秀逸5 やさしい音は少し遅れてやって来る 三浦敬光 青森県
       
特選 唇の動きはたぶんさようなら 赤平くみこ 青森県

『選後感』/高瀬霜石

特選の句は、心に滲みた。
「自分が生きてきた年齢のことは書ける。つまり、年をとればとるほど、書ける範囲が広がる」みたいなことを、作家の渡辺淳一が言っていた。確かに、経験してみないと分からないことは山ほどある。
 僕の川柳人生で、今年は節目の年であった。推薦されて、(社)全日本川柳協会(日川協)の常任幹事になったこともあり、敬愛する柳人の新家完司氏のお膝下ということもあり、6月の鳥取県での日川協の大会を楽しみにしていたのだが、行けなかった。
 9月には「川柳研究社・80周年記念大会」もあり、津田進主幹他、義理ある人が沢山いる吟社でもあるので、行こうと思っていたのだが、それも断念せざるをえなかった。
 僕の叔母(母のような人)が重病で、もしもの時に、僕が不在では困ると家族から釘を刺されていたからだ。かつて4回も喪主を経験した僕は、5回目もどうかこなした。
 そんな経験上、特選句は、僕にとってはどっしりと重く、かつ救われる句でもあった。
≪「不協和音ですか」エー出汁が取れます≫なんぞは腹を抱えて笑った。僕は最初「エー(よい)出汁が取れる」とフツーに関西弁味で読んだのだが、待てよと、「不協和音ですか」−−と少し考えて---エ-、そのココロは「出汁が取れます」という風に、落語的オチというか、謎掛け問答風というか、そんな具合にとらえても面白いのではと思った。
 面白い句、斬新な句がわんさかあって選はすこぶる楽しかったが、秀句となると、どうしてもオーソドックスなところに落ち着いた。
 1年前の「十佐一賞受賞」のコメントに、「もし僕が選者に指名されれば、投句者は一人だけ毛色の違う選者(つまり僕)にきっと戸惑う。そこがまた楽しい」なんてことを書いたが、選を終えて改めてそう思う。れいこ、由紀子、ちえみ、むさしの各氏はどの句を推したのか。わくわくして、発表を待たん。