第16回杉野十佐一賞
  • 第16回杉野十佐一賞ホーム
  • 徳永政二 選
  • なかはられいこ 選
  • 樋口由紀子 選
  • 広瀬ちえみ 選
  • 能田勝利 選
  • む さ し 選
【大賞(11点)】
(特)れいこ(秀)ちえみ(佳)政二・由紀子・むさし
ある朝岸はちいさなへびを生みました
内田真理子(京都府京都市)
 身に余る受賞の喜び、今ゆっくり噛みしめております。
 ちいさなへびに目を留めてくださり、心より感謝申し上げます。
 毎回の、杉野土佐一賞作品の新鮮さ、ユニークさ。
 加えて多彩な顔触れの選者評は、読む度にわくわく致します。
 その魅力に惹かれ投稿を始めましたが、真正面から選者の広い胸めがけ、 力一杯冒険できたことをなにより嬉しく思います。
 迷ってばかりの道ですが、これからもまっすぐ川柳と向き合って行きます。
 お世話になりましたみなさま、ほんとうにありがとうございました。
【準賞(10点)】
(特)ちえみ(秀)れいこ(佳)政二・勝利
うつくしく並ぶ彼岸の膝がしら     小野 善江(高知県)
(秀)政二・れいこ(佳)由紀子・ちえみ・勝利・むさし
流れ着くきれいなほうを上にして   ながた まみ(愛知県)
【7点句】    
(秀)由紀子・勝利(佳)ちえみ    
妹は岸辺の花を描く 白く 城後 朱美 福岡県
     
【6点句】    
(特)政二(佳)むさし    
ここですと言えない岸もあるのです 坂井 冬子 新潟県
(特)むさし(佳)政二    
気がつけば岸辺が足を咥えてる 藤田 めぐみ 東京都
(秀)由紀子ちえみ(佳)    
饅頭を山ほど積んだ向こう岸 木田 さらん 兵庫県
(秀)ちえみ(佳)政二・れいこ・むさし    
岸壁に乗りあげている非常口 小野 五郎 青森県
(秀)勝利(佳)由紀子・ちえみ・むさし    
対岸で投げあっている生卵 中西 亜 愛媛県
     
【5点句】    
(特)由紀子    
ライオンが捨てられている花の岸 小池 正博 大阪府
(特)勝利    
どの岸で拾われようか迷う桃 高橋 星湖 青森県
(秀)むさし(佳)政二・れいこ    
ゆっくりと岸田今日子を開けてみる 榊 陽子 兵庫県
(秀)れいこ(佳)由紀子・ちえみ    
一分はきっとずれてる向こう岸 ひとり 静 奈良県
(秀)政二(佳)れいこ・むさし    
岸らしい岸になるまで喋らない 瀧村 小奈生 愛知県
(秀)政二(佳)由紀子・むさし    
両方が集まってくる夜の岸 泉 明日香 東京都
     
【4点句】    
(秀)勝利(佳)由紀子    
向こう岸へ行ってもウロコはつけておく 渡辺 花子 滋賀県
(秀)政二(佳)ちえみ    
岸の意見もたまには入れて下さいね 天谷 由紀子 福井県
(秀)むさし(佳)由紀子    
くすり屋の岸でギザギザみつけたよ 木暮 健一 北海道
(秀)勝利(佳)むさし    
鍵盤を敲いてわたる向こう岸 内田 真理子 京都府
(秀)勝利(佳)ちえみ    
表情筋鍛えて臨む崖っぷち 熊谷 冬鼓 青森県
(秀)むさし(佳)れいこ    
海馬の右岸に空母を侍らせよ 板垣 孝志 奈良県
(秀)れいこ(佳)ちえみ    
岸は今水母や空母が浮いている 丸山 進 愛知県
(秀)むさし(佳)勝利    
掌を入れて沼の殺意を確かめる 岩淵 黙人 青森県
(佳)政二・れいこ・ちえみ・むさし    
水際の辺りが痒いのです かしこ 奈良 一艘 青森県
(佳)れいこ・ちえみ・勝利・むさし    
岸壁にバンドエイドを貼りに行く 安藤 なみ 愛知県
     
【3点句】    
(秀)由紀子    
前髪プッツン 海岸線を創る 進藤 一車 北海道
(秀)政二    
岸一本担いで父がやってくる 守田 啓子 青森県
(秀)むさし    
リアス式海岸ですってエッチね 飯島 章友 東京都
(秀)ちえみ    
セロリ噛む透明な波待ちながら 須藤 しんのすけ 青森県
(秀)由紀子    
もったいなくて向こう岸までモンローウォーク 渡辺 花子 滋賀県
(秀)ちえみ    
希望という希望が岸に繋がれる 井上 せい子 愛媛県
(秀)れいこ    
引っ張ると海岸線がほどけおり 守田 啓子 青森県
(秀)由紀子    
彼の岸へ並べるうさぎまだ足りず 里村 光子 青森県
(佳)政二・れいこ・由紀子    
たて横ななめどこを足しても岸になる 吉松 澄子 愛媛県
(佳)れいこ・由紀子・むさし    
一人分の岸を空けてください 須川 柊子 宮城県
(佳)れいこ・勝利・むさし    
夕焼けにくぐらせてから捌く岸 中西 亜 愛媛県
(佳)政二・れいこ・むさし    
岸でしたたぶん最後に触れたのは 久保田 紺 大阪府
(佳)れいこ・ちえみ・むさし    
ニッポンの岸は豆腐で出来ている 木本 朱夏 和歌山県
(佳)由紀子・ちえみ・むさし    
コンクリートの岸の激しいものわすれ 井上 せい子 愛媛県
(佳)政二・れいこ・むさし    
近付けば岸はゆっくり逃げて行く 興津 幸代 長野県
(佳)政二・れいこ・ちえみ    
岸という岸に説得されている ひとり 静 奈良県
(佳)政二・由紀子・勝利    
岸辺から少々遠い桃の位置 今村 美根子 愛知県
     
【2点句】    
(佳)政二・れいこ    
あやふやな海岸線をもつからだ 瀧村 小奈生 愛知県
(佳)ちえみ・勝利    
流れ着く椰子の実のような核弾頭のような 浪越 靖政 北海道
(佳)れいこ・由紀子    
それぞれの岸が五本の指にある 中野 敦子 福島県
(佳)由紀子・勝利    
人見知りする対岸の童歌 潮田 春雄 千葉県
(佳)政二・れいこ    
端っこが好きで岸辺になりました 徳長 怜 徳島県
(佳)由紀子・むさし    
この岸を通って行きましたゴジラ 松木 秀 北海道
(佳)ちえみ・勝利    
文庫本閉じて重なりあう両岸 田畑 宏 和歌山県
(佳)れいこ・由紀子    
わたくしの足跡だけにする岸辺 米山 明日歌 静岡県
(佳)れいこ・由紀子    
取ったって怒られそうにない岸だ 石橋 芳山 島根県
(佳)れいこ・むさし    
好きに生きればええがなと岸濡れる 伊藤 こうか 東京都
(佳)れいこ・由紀子    
フライパンのふちから落ちる向う岸 野口 三代子 愛媛県
(佳)政二・勝利    
海岸線集めて月の首飾り 吉原 信子 岡山県
(佳)れいこ・由紀子    
岸に着くまでに座ぶとん並べおり 伊藤 寿子 北海道
(佳)れいこ・むさし    
青汁をせっせと飲んで岸になる 豊澤 かな江 青森県
(佳)れいこ・ちえみ    
同郷のよしみですから根岸まで 高橋 こう子 愛媛県
(佳)ちえみ・むさし    
叫ばれた言葉が岸に流れ着く 山口 亜都子 三重県
(佳)政二・むさし    
一度だけ護岸になったことがある 小野 五郎 青森県
(佳)政二・むさし    
終電の後は男の長い岸 坂本 勝子 青森県
(佳)由紀子・勝利    
母の居る岸に大きな耳つける 桑名 知華子 高知県
(佳)れいこ・由紀子    
岸になるまでを話してくれますか 坂井 冬子 新潟県
(佳)れいこ・ちえみ    
振り向けば自由の女神とぼくの岸 ひ ら く 青森県
(佳)政二・勝利    
岸辺で揉める白桃に性がない 澤野 優美子 北海道
(佳)れいこ・むさし    
もうひとつの貌が岸辺に棲んでいる 藏内 明子 岡山県
(佳)政二・れいこ    
出入りの自由な岸をお貸しする 木暮 健一 北海道
(佳)政二・勝利    
笹舟が岸のあたりを離れない 竹内 歌子 滋賀県
(佳)ちえみ・勝利    
「ご臨終です」「ひょっとしてボクですか」 高瀬 霜石 青森県
(佳)れいこ・ちえみ    
対岸に夫の布団敷いておく 浮 千草 宮城県
(佳)れいこ・むさし    
忘れたいことが岸から顔を出す 久保田 紺 大阪府
(佳)ちえみ・勝利    
共犯のズボンが岸にひっかかる 松田 俊彦 京都府
(佳)政二・由紀子    
素うどんを食べて明るい岸になろ 中野 敦子 福島県
(佳)政二・むさし    
水たまり飛べた少年岸になる 丸山 空木 長野県
(佳)ちえみ・勝利    
切り岸に置いて来たのはパンの耳 門田 澄江 愛媛県
(佳)れいこ・勝利    
たくさんを捨てて岸辺にたどり着く ま き こ 青森県
(佳)ちえみ・むさし    
この世の岸に引っ掛かかってる紙オムツ 三浦 蒼鬼 青森県
(佳)政二・れいこ    
父は足濡らして沖を見つめていた 八上 桐子 兵庫県
(佳)由紀子・むさし    
こんにゃくを撃ぎやさしい岸にする 畑 佳余子 岡山県
(佳)れいこ・由紀子    
みずぎわの冷たいほうに立っている ながた まみ 愛知県
(佳)由紀子・ちえみ    
岸を離れたら新婚気分だね 遠山 あきら 滋賀県
(佳)政二・由紀子    
ゆらゆらと岸が歩いてきてしまう 廣田 千恵子 愛知県
(佳)れいこ・ちえみ    
圏外になった岸へと書くメール 廣田 千恵子 愛知県
(佳)ちえみ・勝利    
土用波ふいに目隠しはずされる 笹田 かなえ 青森県
(佳)政二・むさし    
岸見えてふっと油断をしてしまう 山之内 さち枝 愛媛県
(佳)れいこ・勝利    
あなたは岸へ 中州に春を置いたまま 滋野 さち 青森県
(佳)由紀子・勝利    
こっちの岸でだばだばだあと生きていく 三上 玉夫 青森県
(佳)政二・むさし    
ゆっくりとあなたの岸を這い上がる 相田 みちる 山形県
(佳)政二・むさし    
対岸で踊る骸は ぼくだろう 佐藤 允昭 青森県
     
【1点句】    
(佳)由紀子    
軍靴を脱がせてみれば岸である 榊 陽子 兵庫県
(佳)勝利    
傷ついた岸空かたむけたまま走る 近藤 朋子 岡山県
(佳)ちえみ    
塩味がついて海岸から帰る 遠山 あきら 滋賀県
(佳)ちえみ    
ポリープは良性岸辺から叫ぶ 福力 明良 岡山県
(佳)政二    
しがみつく小さな岸を父がくれ 前田 厚兵 青森県
(佳)勝利    
T シャツの岸辺の底の焦げの跡 奈良 一艘 青森県
(佳)むさし    
着岸が出来ぬ強制収容所 板垣 孝志 奈良県
(佳)勝利    
銀漢の岸から届く助け舟 近藤 朋子 岡山県
(佳)政二    
漂流の果てに茶の間という岸辺 渡辺 フミ子 福島県
(佳)ちえみ    
お経は全部覚えましたよ彼岸花 天谷 由紀子 福井県
(佳)勝利    
岸から戻るナルシスの痩せた影 谷沢 けい子 新潟県
(佳)政二    
見ているよ空の岸辺に腰かけて 徳長 怜 徳島県
(佳)むさし    
テーブルの向こう岸から銀河系 ひ ら く 青森県
(佳)由紀子    
撫子は叔母さま水辺ものがたり 高橋 こう子 愛媛県
(佳)勝利    
びっしりと岸に張り付く半魚人 石橋 芳山 島根県
(佳)政二    
君のいる岸に片足掛けている 谷口 文 京都府
(佳)ちえみ    
対岸に居てシャックリが止まらない 三浦 蒼鬼 青森県
(佳)由紀子    
向こう岸へは行かない父のバタフライ 渡辺 花子 滋賀県
(佳)勝利    
井の中の波打ち際の絶対零度 きさらぎ 彼句吾 青森県
(佳)むさし    
青写真わたしの岸が消されてる ひ と は 青森県
(佳)ちえみ    
暑中見舞いが向こう岸から今きたよ 桑名 正雄 高知県
(佳)政二    
彼岸はない 今かたわらの手を握る 藤田 めぐみ 東京都
(佳)政二    
冬の岸答案用紙流れ着く 近藤 朋子 岡山県
(佳)由紀子    
切岸にタコも兎も来て坐る 山本 美枝 岡山県
(佳)ちえみ    
岸に着くじゃが芋の詰め放題よ 南山 藤花 青森県
(佳)勝利    
震災の子が散ってゆく向こう岸 太田 尚介 青森県
(佳)むさし    
頑なに岸にあがった舟でいる 谷口 文 京都府
(佳)由紀子    
線分ABの中ほどに此岸 笹田 しま 神奈川県
(佳)政二    
まだ岸が起きて来ないの午後三時 畑 佳余子 岡山県
(佳)ちえみ    
彼岸花咲いた 本日も親不孝 高瀬 霜石 青森県
(佳)れいこ    
あいまいな岸に村史とにんにく炒め 高橋 こう子 愛媛県
(佳)むさし    
おーいおーい誰の岸にもなれなくて 斎藤 早苗 青森県
(佳)勝利    
五年以前の卆頭婆は撤去してる岸 松田 俊彦 京都府
(佳)政二    
父と子の静かになってゆく岸辺 街中 悠 大阪府
(佳)由紀子    
岸までは遠く7×8の途中 滋野 さち 青森県
(佳)政二    
彼岸に片足 此岸に片足 故里が見える 普川 素床 千葉県
(佳)勝利    
岸辺の花もあなたも夢ね オフェーリア 浮 千草 宮城県
(佳)ちえみ    
機嫌よく送り出される向こう岸 渡邊 こあき 青森県
(佳)由紀子    
ほら あれが 奴隷海岸です 鰯 板垣 孝志 奈良県
(佳)れいこ    
しあわせな岸です誰も待ちません 八上 桐子 兵庫県
(佳)政二    
途中下車したのは岸が呼んだから 河内谷 恵 兵庫県
(佳)勝利    
片岸のゴジラに翳す紋所 岩根 彰子 京都府
(佳)政二    
寝転べば父の匂いのする護岸 大石 一粋 秋田県
(佳)勝利    
岸を見て後ろ後ろに漕ぐ未来 藤田 めぐみ 東京都
(佳)ちえみ    
川岸に天地無用のダンボール 鈴木 良二 埼玉県
(佳)むさし    
のらりくらりと切り取り線になる浜辺 笹田 かなえ 青森県
(佳)勝利    
忘却や岸で泣いてるハーモニカ 三浦 昌子 宮城県
(佳)由紀子    
岸で焼く着物一式おむつ一束 重森 恒雄 滋賀県
(佳)むさし    
人影も矢じるしもない岸でした 松田 俊彦 京都府
(佳)勝利    
一本の葦ふたたびの岸に群れ 渡辺 フミ子 福島県
(佳)ちえみ    
裏面は物の怪たちの遊ぶ岸 悠 とし子 北海道
(佳)勝利    
石投げる船が方向変えるまで 久場 征子 富山県
(佳)勝利    
修羅のがれ逃がれホタルの岸づたい 藤村 容子 石川県
(佳)由紀子    
母の岸紙フーセンをついている 柳 圭 愛知県
(佳)れいこ    
川岸を先に見たのはわたし 小田 綱 宮城県
(佳)政二    
岸壁を拭いてあなたに話すこと 横山 キミヱ 青森県
(佳)ちえみ    
向こう岸は歌を楽しむキリギス 香田 龍馬 青森県
(佳)むさし    
日が落ちて岸へ行くしかない二人 竹井 紫乙 大阪府
(佳)勝利    
ぶくぶくあぶく水際(みぎわ)の恋はフェルマータ 内田 真理子 京都府
(佳)れいこ    
海岸で批判されてるゴミである 成田 勲 青森県
(佳)れいこ    
音のない夕暮れの岸父といる 街中 悠 大阪府
(佳)政二    
だとしてもそこの岸には上がらない 須川 柊子 宮城県
(佳)政二    
岸壁の母のようだわ焦げてるわ ひとり 静 奈良県
(佳)由紀子    
正当防衛の岸がクシャミした やまもと じろう 東京都
(佳)勝利    
接岸をしようと挑む藁のくず 香田 龍馬 青森県
(佳)ちえみ    
崖っぷちですかあなたも薄笑い 斎藤 早苗 青森県
(佳)むさし    
両岸に手を出す茶碗飛んでくる 原田 順子 神奈川県
(佳)勝利    
この岸を辿れば銀河始発駅 則田 椿 青森県
(佳)ちえみ    
つり糸を垂れて放電しています 濱山 哲也 青森県
(佳)ちえみ    
逃れ出て目指す岸にも花は咲く 石澤 はる子 青森県
(佳)政二    
岸壁で笑い転げている朝日 は る ひ 岩手県
(佳)れいこ    
進化中岸をのぼっているところ 斎藤 早苗 青森県
(佳)由紀子    
岸までは人間くさい足跡だ 山之内 さち枝 愛媛県
(佳)むさし    
桟橋がカルテの裏にありそうだ 三浦 敬光 青森県
(佳)むさし    
対岸へごろりごろりと行きますか 小野 五郎 青森県
(佳)勝利    
一億のいのちに岸のうすっぺら 原田 順子 神奈川県
(佳)れいこ    
まぼろしの岸がときどき声を出す 木暮 健一 北海道
(佳)由紀子    
岸に雨馬鹿馬鹿馬鹿と横殴り 三浦 昌子 宮城県
(佳)ちえみ    
夕闇が迫る岸辺で待っている 渡邊 こあき 青森県
(佳)政二    
人は船いつでも岸を恋しがる 杉山 太郎 神奈川県
(佳)由紀子    
右岸から左岸へ流す鼻薬 上原 稔 東京都
(佳)れいこ    
夕暮れのバスの流れて着く岸辺 重森 恒雄 滋賀県
(佳)むさし    
岸壁は松の廊下の先にある 角田 古錐 青森県
(佳)政二    
補助輪が取れないままで着く水辺 きさらぎ 彼句吾 青森県
(佳)ちえみ    
灯台の落書はもう消えている 久場 征子 富山県
(佳)勝利    
最後尾が遠い彼岸へつづく列 浪越 靖政 北海道
(佳)ちえみ    
セシウムがもれなく岸についてくる 松木 秀 北海道
(佳)由紀子    
紅葉の岸をぞろりと鬼が行く 小河 柳女 三重県
(佳)勝利    
対岸へ斥候に出すヌートリア 木下 草風 岡山県
(佳)由紀子    
チチハハの岸から見てる日本海 中野 敦子 福島県
(佳)ちえみ    
着いた岸彼岸か此岸聞いてみる 田崎 信 東京都
(佳)勝利    
三つ編の少女をそっと置く岸辺 岸和田 喜世子 滋賀県
(佳)れいこ    
たましいがときほぐされてゆく岸辺 三輪 幸子 滋賀県
(佳)由紀子    
滑っても撫でても君に岸がない 丸山 進 愛知県
(佳)むさし    
言い訳を拒んだままで父の岸 平井 美智子 大阪府
(佳)ちえみ    
対岸の火は消えましたあらかしこ 山本 毅 愛媛県
(佳)由紀子    
岸までをアブラカタブラ飛んでます 木田 さらん 兵庫県
(佳)勝利    
約束の岸をおぼえている秋刀魚 宮崎 かおる 岡山県
(佳)由紀子    
ネバーギブアップ岸が泳いでくる 普川 素床 千葉県
(佳)政二    
此岸にはすべてがあって動けない 竹井 紫乙 大阪府
(佳)むさし    
いくたびも君の言葉が流れ着く 杉山 太郎 神奈川県
(佳)勝利    
ブルースと流れ着く女の此岸 藤村 容子 石川県
(佳)れいこ    
岸ひとつあれば生きてはいけるけど 河内谷 恵 兵庫県

応募者ご芳名

【北海道】
伊藤寿子・松木 秀・進藤一車・大橋政良・木暮健一・悠とし子・鈴木厚子・浪越靖政・澤野優美子
【青森】
きさらぎ彼句吾・さざき蓬石・さとう鷹お・ひとは・ひらく・まきこ・まみどり・阿部治幸・横山キミヱ・角田古錐・関埜艸太郎・岩崎眞里子・岩淵黙人・吉川ひとし・熊谷冬鼓・香田龍馬・佐藤允昭・斎藤 紀・斎藤早苗・坂本トシ・坂本勝子・坂本清乃・笹田かなえ・三浦敬光・三浦蒼鬼・三上玉夫・山本弘志・滋野さち・守田啓子・小田原千秋・小野五郎・須藤しんのすけ・成田 勲・石澤はる子・千葉かほる・前田厚兵・草野力丸・則田 椿・村井規子・太田尚介・中道文子・鶴賀一声・田鎖晴天・渡邊こあき・渡邊寂隆・奈良一艘・南山藤花・豊澤かな江・葉 閑女・里村光子・林 紫苑・濱山哲也・高橋せい子・高橋星湖・高杉清女・高瀬霜石
【岩手】
はるひ・加差野静浪
【秋田】
大石一粋
【宮城】
佐藤久嘉・三浦昌子・小田 綱・須川柊子・浮 千草・武川影法師
【山形】
伊東マコ・舟山智恵・相田みちる
【福島】
佐藤幸子・山口チイ子・中野敦子・坪内照光・渡辺フミ子
【栃木】
三上博史
【埼玉】
小沢誠邦・鈴木良二
【千葉】
潮田春雄・普川素床・老沼正一
【東京】
やまもとじろう・伊藤こうか・伊藤三十六・右田俊郎・佐藤仲由・上原 稔・川名洋子・泉明日香・田崎 信・藤田めぐみ・飯島章友
【神奈川】
阿部文彦・原田順子・笹田しま・杉山太郎・中村秀夫
【長野】
丸山空木・興津幸代
【新潟】
坂井冬子・谷沢けい子・長沼春雷
【富山】
久場征子
【石川】
藤村容子
【福井】
天谷由紀子
【岐阜】
金子加行
【静岡】
米山明日歌
【愛知】
ながたまみ・安藤なみ・位田仁美・丸山 進・袴田華・高田桂子・今村美根子・三好光明・山下一美・松長進・水谷克行・青砥和子・川崎敏明・浅見和彦・瀧村小奈生・中川喜代子・中島崇子・北原 修・柳 圭・廣田千恵子
【三重】
山口亜都子・小河柳女・大野たけお
【滋賀】
安井茂樹・遠山あきら・岸和田喜世子・三輪幸子・重森恒雄・竹内歌子・中村はるゑ・渡辺花子・木村正夫・嶌清五郎
【京都】
岩根彰子・松田俊彦・谷口 文・内田真理子
【大阪】
岡 順・街中 悠・久保田紺・寺川弘一・小池正博・竹井紫乙・平井美智子
【兵庫】
河内谷恵・榊陽子・三坂守・斉藤幸男・島津美智子・東馬場美和子・藤田令子・八上桐子・木田さらん・柳口テルヨ
【奈良】
ひとり静・板垣孝志
【和歌山】
田畑 宏・木本朱夏
【島根】
安黒登貴枝・石橋芳山
【岡山】
岡崎一也・吉原信子・宮崎かおる・近藤朋子・原 次代・山本美枝・小林茂子・船越洋行・馬屋原弘万・畑佳余子・福力明良・片岡富子・木下草風・藏内明子
【香川】
田岡 弘
【愛媛】
井上せい子・吉松澄子・熊てるみ・原田否可立・高橋こう子・山岡天涯・山之内さち枝・山本毅・除田六朗・西村寛子・中西亜・武智絹子・門田澄江・野口三代子
【徳島】
徳長 怜
【高知】
桑名正雄・桑名知華子・小野善江
【福岡】
城後朱美・大庭堅司・田島沙和
【大分】
野田清博
【宮崎】
稲毛 寛・桟 舜吉
【沖縄】
渡嘉敷唯正

計214名

徳永 政二 選(とくながせいじ・滋賀県・びわこ番傘川柳会所属)
佳作44ゆっくりとあなたの岸を這い上がる相田みちる山形県
佳作43此岸にはすべてがあって動けない竹井 紫乙大阪府
佳作42岸辺から少々遠い桃の位置今村美根子愛知県
佳作41終電の後は男の長い岸坂本勝子青森県
佳作40対岸で踊る骸は ぼくだろう佐藤允昭青森県
佳作39ゆらゆらと岸が歩いてきてしまう廣田千恵子愛知県
佳作38水たまり飛べた少年岸になる丸山空木長野県
佳作37補助輪が取れないままで着く水辺きさらぎ彼句吾青森県
佳作36近付けば岸はゆっくり逃げて行く興津幸代長野県
佳作35人は船いつでも岸を恋しがる杉山太郎神奈川県
佳作34岸見えてふっと油断をしてしまう山之内さち枝愛媛県
佳作33水際の辺りが痒いのです かしこ奈良一艘青森県
佳作32岸という岸に説得されているひとり静奈良県
佳作31岸壁で笑い転げている朝日はるひ岩手県
佳作30素うどんを食べて明るい岸になろ中野敦子福島県
佳作29うつくしく並ぶ彼岸の膝がしら小野 善江高知県
佳作28父は足濡らして沖を見つめていた八上桐子兵庫県
佳作27岸辺で揉める白桃に性がない澤野 優美子北海道
佳作26岸壁の母のようだわ焦げてるわひとり静奈良県
佳作25だとしてもそこの岸には上がらない須川 柊子宮城県
佳作24気がつけば岸辺が足を咥えてる藤田めぐみ東京都
佳作23岸壁を拭いてあなたに話すこと横山キミヱ青森県
佳作22岸壁に乗りあげている非常口小野五郎青森県
佳作21海岸線集めて月の首飾り吉原信子岡山県
佳作20たて横ななめどこを足しても岸になる吉松澄子愛媛県
佳作19一度だけ護岸になったことがある小野五郎青森県
佳作18ゆっくりと岸田今日子を開けてみる榊陽子兵庫県
佳作17寝転べば父の匂いのする護岸大石一粋秋田県
佳作16途中下車したのは岸が呼んだから河内谷恵兵庫県
佳作15彼岸に片足 此岸に片足 故里が見える普川素床千葉県
佳作14父と子の静かになってゆく岸辺街中 悠大阪府
佳作13笹舟が岸のあたりを離れない竹内歌子滋賀県
佳作12ある朝岸はちいさなへびを生みました内田真理子京都府
佳作11まだ岸が起きて来ないの午後三時畑佳余子岡山県
佳作10冬の岸答案用紙流れ着く近藤朋子岡山県
佳作9彼岸はない 今かたわらの手を握る藤田めぐみ東京都
佳作8君のいる岸に片足掛けている谷口文京都府
佳作7端っこが好きで岸辺になりました徳長怜徳島県
佳作6見ているよ空の岸辺に腰かけて徳長怜徳島県
佳作5漂流の果てに茶の間という岸辺渡辺フミ子福島県
佳作4出入りの自由な岸をお貸しする木暮健一北海道
佳作3しがみつく小さな岸を父がくれ前田厚兵青森県
佳作2あやふやな海岸線をもつからだ瀧村 小奈生愛知県
佳作1岸でしたたぶん最後に触れたのは久保田 紺大阪府
       
秀逸5両方が集まってくる夜の岸泉 明日香東京都
秀逸4岸らしい岸になるまで喋らない瀧村 小奈生愛知県
秀逸3岸一本担いで父がやってくる守田啓子青森県
秀逸2流れ着くきれいなほうを上にしてながた まみ愛知県
秀逸1岸の意見もたまには入れて下さいね天谷由紀子福井県
       
特選ここですと言えない岸もあるのです坂井冬子新潟県

選評

 句をどう書くか、川柳をどう書くか、そのことを今は問われている。今までにない新しい書き方が求められている。
 それは、評価された句のあとを追うのではなく、あくまで作者自身のそれぞれである。
 そして、そこには作者自身にたどりつくための苦心がなければならない。
 常識の範囲でひろがった情報をただなぞるのではなく、作者独自の発見がなければならない。
 それは作者が対象を直にみつめるところから生まれる発見であり、そこから生まれる言葉、イメージである。作者自身が大切にするイメージの創作であってほしい。

 ここですと言えない岸もあるのです

 「岸も」の「も」に作者の実感がある。
 今回、課題「岸」が、どれだけ作者自身となって伝わってくるか、そのことが評価基準になったようだ。

 岸の意見もたまには入れて下さいね

 惹かれる書き方である。「たまには」とひかえめだが、豊かな岸辺であってほしいと願 う、そんな気持ちが伝わる。

 流れ着くきれいなほうを上にして

「きれいでないほう」を思う。なんともいえないかなしさを感じさせてくれる。あたりの水は澄んでいる。

 岸一本担いで父がやってくる

 題のおかげかもしれないが、ここは「岸一本」につきる。また、日常での父と岸との関係が読め、生き生きする。

 岸らしい岸になるまで喋らない

 喋ることは元気であること。ふっと被災地のことを思うが、岸には岸の役割があり、存在がある。

 両方が集まってくる夜の岸

 この「両方」、川岸の両岸と読んだ。生きもののようになまめかしくささやく「夜の岸」。それだけでおもしろい。
なかはら れいこ 選(なかはられいこ・岐阜県・川柳展望所属)
佳作44岸ひとつあれば生きてはいけるけど 河内 谷恵兵庫県
佳作43出入りの自由な岸をお貸しする 木暮 健一北海道
佳作42みずぎわの冷たいほうに立っているながた まみ愛知県
佳作41たましいがときほぐされてゆく岸辺 三輪 幸子滋賀県
佳作40ゆっくりと岸田今日子を開けてみる 榊 陽子兵庫県
佳作39近付けば岸はゆっくり逃げて行く 興津 幸代長野県
佳作38あなたは岸へ 中州に春を置いたまま 滋野 さち青森県
佳作37岸という岸に説得されている ひとり 静奈良県
佳作36夕暮れのバスの流れて着く岸辺 重森 恒雄滋賀県
佳作35もうひとつの貌が岸辺に棲んでいる 藏内 明子岡山県
佳作34まぼろしの岸がときどき声を出す 木暮 健一北海道
佳作33忘れたいことが岸から顔を出す 久保田 紺大阪府
佳作32圏外になった岸へと書くメール 廣田 千恵子愛知県
佳作31進化中岸をのぼっているところ 斎藤 早苗青森県
佳作30父は足濡らして沖を見つめていた 八上 桐子兵庫県
佳作29水際の辺りが痒いのです かしこ 奈良 一艘青森県
佳作28取ったって怒られそうにない岸だ 石橋 芳山島根県
佳作27岸になるまでを話してくれますか 坂井 冬子新潟県
佳作26岸らしい岸になるまで喋らない 瀧村 小奈生愛知県
佳作25音のない夕暮れの岸父といる 街中 悠大阪府
佳作24海岸で批判されてるゴミである 成田 勲青森県
佳作23川岸を先に見たのはわたし 小田 綱宮城県
佳作22一人分の岸を空けてください 須川 柊子宮城県
佳作21海馬の右岸に空母を侍らせよ 板垣 孝志奈良県
佳作20同郷のよしみですから根岸まで 高橋 こう子愛媛県
佳作19ニッポンの岸は豆腐で出来ている 木本 朱夏和歌山県
佳作18たくさんを捨てて岸辺にたどり着く ま き こ青森県
佳作17フライパンのふちから落ちる向う岸 野口 三代子愛媛県
佳作16しあわせな岸です誰も待ちません 八上 桐子兵庫県
佳作15岸壁に乗りあげている非常口 小野 五郎青森県
佳作14わたくしの足跡だけにする岸辺 米山 明日歌静岡県
佳作13あいまいな岸に村史とにんにく炒め 高橋 こう子愛媛県
佳作12端っこが好きで岸辺になりました 徳長 怜徳島県
佳作11岸でしたたぶん最後に触れたのは 久保田 紺大阪府
佳作10夕焼けにくぐらせてから捌く岸 中西 亜愛媛県
佳作9それぞれの岸が五本の指にある 中野 敦子福島県
佳作8たて横ななめどこを足しても岸になる 吉松 澄子愛媛県
佳作7好きに生きればええがなと岸濡れる 伊藤 こうか東京都
佳作6青汁をせっせと飲んで岸になる 豊澤 かな江青森県
佳作5対岸に夫の布団敷いておく浮 千草宮城県
佳作4岸に着くまでに座ぶとん並べおり 伊藤 寿子北海道
佳作3岸壁にバンドエイドを貼りに行く 安藤 なみ愛知県
佳作2あやふやな海岸線をもつからだ 瀧村 小奈生愛知県
佳作1振り向けば自由の女神とぼくの岸 ひ ら く青森県
       
秀逸5引っ張ると海岸線がほどけおり 守田 啓子青森県
秀逸4岸は今水母や空母が浮いている丸山 進愛知県
秀逸3一分はきっとずれてる向こう岸 ひとり 静奈良県
秀逸2うつくしく並ぶ彼岸の膝がしら 小野 善江高知県
秀逸1流れ着くきれいなほうを上にして ながた まみ愛知県
       
特選ある朝岸はちいさなへびを生みました 内田 真理子京都府

選評

 十佐一賞が題詠であることには意義がある。選をさせていただく回数が重なるごとにそう思えるようになった。川柳を読む最大の楽しみは、ひとりひと りの作者の世界観を見せていただけることだ。読み手はいつだって、自分とはまったく違う、いままで想像したこともなかった、世界の見え方や捉え方 を展開してみせてほしいのだ。あなたにとって「岸」って、なに? と、一句一句に問いかけながら選をさせていただいた。

ある朝岸はちいさなへびを生みました

 反射的に太宰治の『斜陽』の蛇の卵を焼くシーンを思い出した。美しい光景だけに不穏である。夜明けの岸から生まれ出る「ちいさなへび」は何かの 予兆だと読んだ。「ですます調」で書かれているのはこれが「語り」であるからだろう。「ある朝」の「ある」は便利な言葉だけに安易に使われること も多いが、この「ある」は確かな必然性によって使われている。そこにも好印象をうけた。清潔感のある上質なエロティシズムも含めて、独自の世界観 をもっとみてみたいと思わせてくれる作品であり、作者であった。

流れ着くきれいなほうを上にして

 主語の省略という手法は読み手の好奇心を刺激する。ただ、あまり目的が露骨に見えてしまうと作品は嫌味になりがちだ。だが、この作品にはそう いったいやらしさがない。主語を自分として読んだとき、流れ着くときはやはり、きれいなほうを上にしていたいと思う自分を発見する。流木も海草の 切れ端もガラスのかけらも空き缶も、たぶん、みんな、最後の姿を目撃されるときは、きれいなほうを記憶してほしいだろうと思う。もっと言えば、目 撃する方もきれいなほうを記憶していたいのだと思う。
 正直に言うと「へび」と「きれいなほう」のちらを特選にしようか、最後まで迷った。始まりの岸と終わりの岸の間でさ迷っていたのだと、この稿を 書いていてはじめて気づいた。題詠であることの意義がわかりかけてきたというのは、そんなしあわせな時間を過ごさせていただいたからである。

樋口 由紀子 選(ひぐちゆきこ・兵庫県・MANO所属)
佳作44こっちの岸でだばだばだあと生きていく三上玉夫青森県
佳作43ネバーギブアップ岸が泳いでくる普川素床千葉県
佳作42岸までをアブラカタブラ飛んでます木田 さらん兵庫県
佳作41滑っても撫でても君に岸がない丸山 進愛知県
佳作40チチハハの岸から見てる日本海中野敦子福島県
佳作39コンクリートの岸の激しいものわすれ井上 せい子愛媛県
佳作38紅葉の岸をぞろりと鬼が行く小河柳女三重県
佳作37一分はきっとずれてる向こう岸ひとり静奈良県
佳作36こんにゃくを撃ぎやさしい岸にする畑佳余子岡山県
佳作35右岸から左岸へ流す鼻薬上原稔東京都
佳作34岸に雨馬鹿馬鹿馬鹿と横殴り三浦昌子宮城県
佳作33母の居る岸に大きな耳つける桑名知華子高知県
佳作32岸までは人間くさい足跡だ山之内さち枝愛媛県
佳作31岸に着くまでに座ぶとん並べおり伊藤寿子北海道
佳作30対岸で投げあっている生卵中西亜愛媛県
佳作29ある朝岸はちいさなへびを生みました内田真理子京都府
佳作28岸辺から少々遠い桃の位置今村美根子愛知県
佳作27岸を離れたら新婚気分だね遠山あきら滋賀県
佳作26正当防衛の岸がクシャミしたやまもとじろう東京都
佳作25素うどんを食べて明るい岸になろ中野敦子福島県
佳作24ゆらゆらと岸が歩いてきてしまう廣田千恵子愛知県
佳作23母の岸紙フーセンをついている柳圭愛知県
佳作22向こう岸へ行ってもウロコはつけておく渡辺花子滋賀県
佳作21この岸を通って行きましたゴジラ松木 秀北海道
佳作20岸で焼く着物一式おむつ一束重森恒雄滋賀県
佳作19みずぎわの冷たいほうに立っているながた まみ愛知県
佳作18フライパンのふちから落ちる向う岸野口三代子愛媛県
佳作17岸になるまでを話してくれますか坂井冬子新潟県
佳作16ほら あれが 奴隷海岸です 鰯板垣孝志奈良県
佳作15わたくしの足跡だけにする岸辺米山明日歌静岡県
佳作14岸までは遠く7×8の途中滋野さち青森県
佳作13両方が集まってくる夜の岸泉 明日香東京都
佳作12一人分の岸を空けてください須川 柊子宮城県
佳作11線分ABの中ほどに此岸笹田 しま神奈川県
佳作10切岸にタコも兎も来て坐る山本美枝岡山県
佳作9流れ着くきれいなほうを上にしてながた まみ愛知県
佳作8向こう岸へは行かない父のバタフライ渡辺花子滋賀県
佳作7撫子は叔母さま水辺ものがたり高橋こう子愛媛県
佳作6それぞれの岸が五本の指にある中野敦子福島県
佳作5人見知りする対岸の童歌潮田春雄千葉県
佳作4取ったって怒られそうにない岸だ石橋芳山島根県
佳作3たて横ななめどこを足しても岸になる吉松澄子愛媛県
佳作2くすり屋の岸でギザギザみつけたよ木暮健一北海道
佳作1軍靴を脱がせてみれば岸である榊陽子兵庫県
       
秀逸5彼の岸へ並べるうさぎまだ足りず里村光子青森県
秀逸4もったいなくて向こう岸までモンローウォーク渡辺花子滋賀県
秀逸3饅頭を山ほど積んだ向こう岸木田 さらん兵庫県
秀逸2前髪プッツン 海岸線を創る進藤一車北海道
秀逸1妹は岸辺の花を描く 白く城後朱美福岡県
       
特選ライオンが捨てられている花の岸小池正博大阪府

選評

 「岸」にはドラマがあり、郷愁を誘うものがある。こういう題がやっかい。なぜならば「岸」にはすでに手垢がびっしりとこびりついているからである。

<ライオンが捨てられている花の岸>

 ライオンなんて捨てられているわけがないと叫びながらも、ひょっとしたら捨てられているかもしれないと思った。
 嘘のようで嘘ではなく、ホントのようでホントではない。日常なのか日常でないのか。このほどよいリアル感がよかった。
 ライオンのぬいぐるみとか置物かもしれないが、私はライオンそのものと読んだ。ライオンを置き去りにされた花の岸はさてどうなったのか。
 意外とライオンと花の岸は共存するような気がして楽しくなった。

<妹は岸辺の花を描く 白く>

 「白く」が不気味。白いものを白く描くのは当然だが、どうもこの妹の場合は何色であろうとも岸辺の花を白く描いているようである。それは考えれば考えるほどへんな行為。「岸」を独自の存在に仕立てあげている。

<前髪プッツン 海岸線を創る>

 前髪を切ることと海岸線を創ることは本来次元の違うことのはずである。前髪というのはその長さによって容貌も雰囲気もかなり変わる。「創る」と何かが決まった。

<饅頭を山ほど積んだ向こう岸>

 「饅頭」が気になった。「積んだ」は積んであるということなのか、山ほど積んだ作者の仕業なのか。どちらにせよ、岸がなにやら意味のある場になってくる。

 みんなが思っているありきたりの「岸」ではなく、作者が独自に作り上げた「岸」を選ばせていただいた。
広瀬 ちえみ 選(ひろせちえみ・宮城県・杜人 所属)
佳作44振り向けば自由の女神とぼくの岸 ひ ら く青森県
佳作43対岸に夫の布団敷いておく 浮 千草宮城県
佳作42対岸の火は消えましたあらかしこ 山本 毅愛媛県
佳作41表情筋鍛えて臨む崖っぷち 熊谷 冬鼓青森県
佳作40着いた岸彼岸か此岸聞いてみる田崎 信東京都
佳作39土用波ふいに目隠しはずされる 笹田 かなえ青森県
佳作38セシウムがもれなく岸についてくる松木 秀北海道
佳作37灯台の落書はもう消えている 久場 征子富山県
佳作36圏外になった岸へと書くメール 廣田 千恵子愛知県
佳作35岸を離れたら新婚気分だね 遠山 あきら滋賀県
佳作34夕闇が迫る岸辺で待っている 渡邊 こあき青森県
佳作33岸は今水母や空母が浮いている丸山 進愛知県
佳作32「ご臨終です」「ひょっとしてボクですか」 高瀬 霜石青森県
佳作31ニッポンの岸は豆腐で出来ている 木本 朱夏和歌山県
佳作30逃れ出て目指す岸にも花は咲く 石澤 はる子青森県
佳作29岸の意見もたまには入れて下さいね 天谷 由紀子福井県
佳作28つり糸を垂れて放電しています 濱山 哲也青森県
佳作27崖っぷちですかあなたも薄笑い 斎藤 早苗青森県
佳作26この世の岸に引っ掛かかってる紙オムツ 三浦 蒼鬼青森県
佳作25妹は岸辺の花を描く 白く 城後 朱美福岡県
佳作24岸という岸に説得されている ひとり 静奈良県
佳作23向こう岸は歌を楽しむキリギス 香田 龍馬青森県
佳作22叫ばれた言葉が岸に流れ着く 山口 亜都子三重県
佳作21裏面は物の怪たちの遊ぶ岸悠 とし子北海道
佳作20文庫本閉じて重なりあう両岸田畑 宏和歌山県
佳作19川岸に天地無用のダンボール 鈴木 良二埼玉県
佳作18コンクリートの岸の激しいものわすれ 井上 せい子愛媛県
佳作17同郷のよしみですから根岸まで 高橋 こう子愛媛県
佳作16共犯のズボンが岸にひっかかる 松田 俊彦京都府
佳作15機嫌よく送り出される向こう岸 渡邊 こあき青森県
佳作14切り岸に置いて来たのはパンの耳 門田 澄江愛媛県
佳作13対岸で投げあっている生卵 中西 亜愛媛県
佳作12彼岸花咲いた 本日も親不孝 高瀬 霜石青森県
佳作11岸に着くじゃが芋の詰め放題よ 南山 藤花青森県
佳作10流れ着くきれいなほうを上にして ながた まみ愛知県
佳作9暑中見舞いが向こう岸から今きたよ 桑名 正雄高知県
佳作8対岸に居てシャックリが止まらない 三浦 蒼鬼青森県
佳作7一分はきっとずれてる向こう岸 ひとり 静奈良県
佳作6水際の辺りが痒いのです かしこ 奈良 一艘青森県
佳作5お経は全部覚えましたよ彼岸花 天谷 由紀子福井県
佳作4岸壁にバンドエイドを貼りに行く 安藤 なみ愛知県
佳作3流れ着く椰子の実のような核弾頭のような 浪越 靖政北海道
佳作2ポリープは良性岸辺から叫ぶ 福力 明良岡山県
佳作1塩味がついて海岸から帰る 遠山 あきら滋賀県
       
秀逸5ある朝岸はちいさなへびを生みました 内田 真理子京都府
秀逸4希望という希望が岸に繋がれる 井上 せい子愛媛県
秀逸3セロリ噛む透明な波待ちながら 須藤 しんのすけ青森県
秀逸2岸壁に乗りあげている非常口 小野 五郎青森県
秀逸1饅頭を山ほど積んだ向こう岸 木田 さらん兵庫県
       
特選うつくしく並ぶ彼岸の膝がしら 小野 善江高知県

選評

 倉本朝世の作品に「この世からはがれた膝がうつくしい」がある。この作品なしでは特選の

うつくしく並ぶ彼岸の膝がしら

を語れない。どちらも死後の膝だけに視線を向けているのだが、朝世の作品は剥がれたその場所にとどまっている膝である。その膝たち(あくまで膝だけ)が立ち上がって向こう岸に渡っていくぎくしゃくとした様子が含まれているのが特選句である。
 私は朝世作品を愛誦していたために、膝がアニメーションのように川を渡り終え、きちんと並んでこの世の方を向いている。この情景が、過ぎ去った過去、懐かしい死者たち、のことをいきいきと呼び出しユーモアを含んだ哀しさを感じさせられた。しかしながらそう鑑賞するのは私だけで作者は哀しいとも何とも言っていない。ただただうつくしい情景を提示しているだけだ。もの言わぬ「膝」だけを読み手と交感できる場所に持ってくる。しかし、読み手は「膝」に情感を見つけ、ものを言わせようとしてしまう。句のなかに何があるのか探そうとするのが読み手ではないだろうか。私は作者とのこのかけひきが大好きである。作者は朝世作品を知っているのだろうか。
能田 勝利 選(のうだ かつとし・愛媛県・第15回杉野十佐一賞)
佳作44ブルースと流れ着く女の此岸藤村容子石川県
佳作43約束の岸をおぼえている秋刀魚宮崎かおる岡山県
佳作42切り岸に置いて来たのはパンの耳門田澄江愛媛県
佳作41三つ編の少女をそっと置く岸辺岸和田喜世子滋賀県
佳作40対岸へ斥候に出すヌートリア木下草風岡山県
佳作39岸辺から少々遠い桃の位置今村美根子愛知県
佳作38たくさんを捨てて岸辺にたどり着くまきこ青森県
佳作37最後尾が遠い彼岸へつづく列浪越 靖政北海道
佳作36共犯のズボンが岸にひっかかる松田俊彦京都府
佳作35笹舟が岸のあたりを離れない竹内歌子滋賀県
佳作34あなたは岸へ 中州に春を置いたまま滋野さち青森県
佳作33一億のいのちに岸のうすっぺら原田順子神奈川県
佳作32流れ着くきれいなほうを上にしてながた まみ愛知県
佳作31こっちの岸でだばだばだあと生きていく三上玉夫青森県
佳作30土用波ふいに目隠しはずされる笹田かなえ青森県
佳作29掌を入れて沼の殺意を確かめる岩淵黙人青森県
佳作28この岸を辿れば銀河始発駅則田椿青森県
佳作27岸壁にバンドエイドを貼りに行く安藤なみ愛知県
佳作26接岸をしようと挑む藁のくず香田龍馬青森県
佳作25うつくしく並ぶ彼岸の膝がしら小野 善江高知県
佳作24ぶくぶくあぶく水際みぎわの恋はフェルマータ内田真理子京都府
佳作23修羅のがれ逃がれホタルの岸づたい藤村容子石川県
佳作22石投げる船が方向変えるまで久場征子富山県
佳作21一本の葦ふたたびの岸に群れ渡辺フミ子福島県
佳作20忘却や岸で泣いてるハーモニカ三浦昌子宮城県
佳作19岸辺で揉める白桃に性がない澤野 優美子北海道
佳作18岸を見て後ろ後ろに漕ぐ未来藤田めぐみ東京都
佳作17片岸のゴジラに翳す紋所岩根彰子京都府
佳作16「ご臨終です」「ひょっとしてボクですか」 高瀬霜石青森県
佳作15岸辺の花もあなたも夢ね オフェーリア浮 千草宮城県
佳作14海岸線集めて月の首飾り吉原信子岡山県
佳作13五年以前の卆頭婆は撤去してる岸松田俊彦京都府
佳作12人見知りする対岸の童歌潮田春雄千葉県
佳作11震災の子が散ってゆく向こう岸太田尚介青森県
佳作10母の居る岸に大きな耳つける桑名知華子高知県
佳作9井の中の波打ち際の絶対零度きさらぎ彼句吾青森県
佳作8夕焼けにくぐらせてから捌く岸中西亜愛媛県
佳作7びっしりと岸に張り付く半魚人石橋芳山島根県
佳作6岸から戻るナルシスの痩せた影谷沢けい子新潟県
佳作5文庫本閉じて重なりあう両岸田畑 宏和歌山県
佳作4銀漢の岸から届く助け舟近藤朋子岡山県
佳作3T シャツの岸辺の底の焦げの跡奈良一艘青森県
佳作2流れ着く椰子の実のような核弾頭のような浪越 靖政北海道
佳作1傷ついた岸空かたむけたまま走る近藤朋子岡山県
       
秀逸5対岸で投げあっている生卵中西亜愛媛県
秀逸4妹は岸辺の花を描く 白く城後朱美福岡県
秀逸3表情筋鍛えて臨む崖っぷち熊谷冬鼓青森県
秀逸2鍵盤を敲いてわたる向こう岸内田真理子京都府
秀逸1向こう岸へ行ってもウロコはつけておく渡辺花子滋賀県
       
特選どの岸で拾われようか迷う桃高橋星湖青森県

選評

 兼題「岸」集句六四一、様々な「岸」がある中で東日本大震災を詠った作品が多かった。私は遠く四国の地にあって胸を痛めながらも少しばかりの義捐金を送ることしか出来ませんでした。大変な災害に見舞われた方々に平穏な日が一日でも早く訪れることを祈るばかりです。
 さて平成二十一年十月、川柳黎明(京都)十年の集いで堺利彦氏が「有情の川柳」と題して講演されております。〈未視感〉と〈既視感〉より抜粋、「既視感」を「懐かしさ」と言い換えますとぴったりするのかも知れません。99%の〈圧倒的未視感〉の中にも1%の〈僅かな既視感〉という「懐かしさ」が嗅ぎ取れる作品こそが感動を生むのではないでしょうか。…略…。私が作句する上で、選句をする上で最も大切にしている言葉です。
 「投げ合っている生卵」の正体は何だろう、ただの生卵ならぶつけあってもひどく汚れるだけで怪我をすることも無いのだが。「描く 白く」と強く言い切った白い花とは、妹さんへの思い入れの深さが響いてくる。「表情筋鍛えて臨む崖っぷち」いざの時人は何を考え、どう行動するのか、人としての覚悟を問うている。ふと越後長岡藩家老河井継之助の壮絶な生涯を思った。「鍵盤を敲いてわたる向こう岸」鍵盤は指先で押す(弾く)ものと思っていたが敲くものでもあったのだ。なるほどディキシーランドのピアノは正に敲いている。さぞ賑やかに向う岸へ…。「向こう岸へ行ってもウロコはつけておく」強かな男の一生か、いや案外暢気な男の一生か、ウロコ一枚一枚に浮かぶ「蘇」の一文字。

特選「どの岸で拾われようか迷う桃」

 すっきりまとまった一句、だがこの桃を「女」に置き換えてみると少々厄介なことになる、毒づいて、甘えて、強かで、従順でか弱くて、男はギブアップあるのみ、「女」はえらいということだ。
 お役目を終えてアナログ人間の私は又々旧びて赤茶けた「鬼平犯科帳」第三巻にとりかかる。
む さ し 選(むさし・青森県・おかじょうき川柳社代表)
佳作44いくたびも君の言葉が流れ着く 杉山 太郎神奈川県
佳作43岸壁にバンドエイドを貼りに行く 安藤 なみ愛知県
佳作42言い訳を拒んだままで父の岸 平井 美智子大阪府
佳作41岸でしたたぶん最後に触れたのは 久保田 紺大阪府
佳作40対岸で踊る骸は ぼくだろう 佐藤 允昭青森県
佳作39鍵盤を敲いてわたる向こう岸 内田 真理子京都府
佳作38両方が集まってくる夜の岸 泉 明日香東京都
佳作37岸見えてふっと油断をしてしまう 山之内 さち枝愛媛県
佳作36岸壁は松の廊下の先にある 角田 古錐青森県
佳作35ゆっくりとあなたの岸を這い上がる 相田 みちる山形県
佳作34対岸で投げあっている生卵 中西 亜愛媛県
佳作33対岸へごろりごろりと行きますか 小野 五郎青森県
佳作32桟橋がカルテの裏にありそうだ 三浦 敬光青森県
佳作31この世の岸に引っ掛かかってる紙オムツ 三浦 蒼鬼青森県
佳作30青汁をせっせと飲んで岸になる 豊澤 かな江青森県
佳作29夕焼けにくぐらせてから捌く岸 中西 亜愛媛県
佳作28両岸に手を出す茶碗飛んでくる 原田 順子神奈川県
佳作27ニッポンの岸は豆腐で出来ている 木本 朱夏和歌山県
佳作26好きに生きればええがなと岸濡れる 伊藤 こうか東京都
佳作25岸壁に乗りあげている非常口 小野 五郎青森県
佳作24こんにゃくを撃ぎやさしい岸にする 畑 佳余子岡山県
佳作23日が落ちて岸へ行くしかない二人 竹井 紫乙大阪府
佳作22コンクリートの岸の激しいものわすれ 井上 せい子愛媛県
佳作21一度だけ護岸になったことがある 小野 五郎青森県
佳作20人影も矢じるしもない岸でした 松田 俊彦京都府
佳作19のらりくらりと切り取り線になる浜辺 笹田 かなえ青森県
佳作18忘れたいことが岸から顔を出す 久保田 紺大阪府
佳作17水たまり飛べた少年岸になる 丸山 空木長野県
佳作16叫ばれた言葉が岸に流れ着く 山口 亜都子三重県
佳作15ここですと言えない岸もあるのです 坂井 冬子新潟県
佳作14岸らしい岸になるまで喋らない 瀧村 小奈生愛知県
佳作13おーいおーい誰の岸にもなれなくて 斎藤 早苗青森県
佳作12もうひとつの貌が岸辺に棲んでいる 藏内 明子岡山県
佳作11頑なに岸にあがった舟でいる 谷口 文京都府
佳作10流れ着くきれいなほうを上にして ながた まみ愛知県
佳作9青写真わたしの岸が消されてる ひ と は青森県
佳作8水際の辺りが痒いのです かしこ 奈良 一艘青森県
佳作7テーブルの向こう岸から銀河系 ひ ら く青森県
佳作6ある朝岸はちいさなへびを生みました 内田 真理子京都府
佳作5近付けば岸はゆっくり逃げて行く 興津 幸代長野県
佳作4着岸が出来ぬ強制収容所 板垣 孝志奈良県
佳作3この岸を通って行きましたゴジラ松木 秀北海道
佳作2一人分の岸を空けてください 須川 柊子宮城県
佳作1終電の後は男の長い岸 坂本 勝子青森県
       
秀逸5掌を入れて沼の殺意を確かめる 岩淵 黙人青森県
秀逸4海馬の右岸に空母を侍らせよ 板垣 孝志奈良県
秀逸3リアス式海岸ですってエッチね 飯島 章友東京都
秀逸2くすり屋の岸でギザギザみつけたよ 木暮 健一北海道
秀逸1ゆっくりと岸田今日子を開けてみる 榊 陽子兵庫県
       
特選気がつけば岸辺が足を咥えてる 藤田 めぐみ東京都

選評

 第16回杉野十佐一賞に641句という多くの作品をお寄せいただき誠にありがとうございます。
 「岸」という題は句にしにくかったようです。
 そんな中でも題に凭れてくっつき過ぎることなく、しかも、離れすぎず自分のスタイルを持ってドラマを作る方がいる。

特選 気がつけば岸辺が足を咥えてる

 この句は「岸」という題を自分にしっかり引き寄せながらドラマとして見事に仕立てていると思います。
 普段の生活を続けている内に彼岸がこっそり忍び寄って足を咥えている。誰もがこのような恐怖のイメージを心のどこかに持っていて簡単に作れそうな気もしますが、どっこい作れるものではない。こうして突きつけられると急にこの世が寒くなったような気がして来ます。

秀逸5 ゆっくりと岸田今日子を開けてみる

 2006年に亡くなられた岸田今日子さん。彼女を開けば女優であり、声優であり、童話作家でもある。劇作家岸田國士の次女という側面もある。魅力的な女性でもあった。この大いなる「岸」は、やはりゆっくり静かに開けるべきであろう。彼女独特の声を不意に思い出した。
 「岸」という題に「岸田今日子」はちょっと違反気味な感じがしますが、充分楽しめました。

秀逸4 くすり屋の岸でギザギザみつけたよ
秀逸3 リアス式海岸ですってエッチね
秀逸2 海馬の右岸に空母を侍らせよ
秀逸1 掌を入れて沼の殺意を確かめる

 「薬屋の岸」「エッチな海岸」「海馬の右岸」「沼の殺意」どれも発想が愉快痛快です。
 因みに、「海馬」はセイウチやトド、タツノオトシゴ、ジュゴンなどのことを言ったりするようですが、私は脳内部のある部分として読みました。